「和食卓文化で四季を感じる“心の畑”を耕す」

子供というものは洋菓子や洋食が好きで、和菓子や正月のおせち料理は敬遠する…これらは「大人の思い込みです」ときっぱり指摘。大人が考える以上に子供の味覚はしっかりしており、だしの違いも分かるそうです。子供たちの柔らかい“心の畑”を耕すため、伝統行事や旬の料理などと触れさせることで「和食卓」文化を伝えたいと語る槻谷順子さん。主催する日本和食卓文化協会の活動について伺いました。

槻谷順子さんの顔写真槻谷順子(ツキタニ ジュンコ)
フードスタイリスト・食卓文化研究家。キッチンスタジオ&スペース・フードスタイリング教室『料理のある風景』主宰。雑誌・料理本・広告等を中心に、盛り付けや料理製作も含めたトータルなフードスタイリングを行う。日本伝統料理の撮影に多く携わり、そこで学び、実践してきたことをベースに2008年より「子供と大人の和食卓育教室」と「フードスタイリング教室」を開始。このカリキュラムを基軸に日本和食卓文化マイスター講座を実施している。

Q:「和食卓文化」とは、どのような内容でしょうか。

「和食卓」とは文字通り「和食」と「食卓」の融合。当協会の造語で商標登録もしております。ユネスコ文化遺産の「和食」が注目されていますが、四季の移り変わりを取り入れた食器から、自然の恵みに対して感謝する言葉「いただきます」とあいさつして食卓を囲むことまで、その全てを含めたのが「和食卓文化」です。和食の料理教室ではなく、和食と共に伝えられてきた伝統行事や生活習慣、食材や食器や調理道具も、トータルの文化としてとらえた、当協会オリジナルの「和食卓育講座」です。

Q:そのような考えに至った背景は何ですか。

自分の学生時代からそのような勉強がしたくて、どこで学べるか探したけれど見つからなかったのです。
仕事としてフードスタイリストの助手から始めて、料理の撮影を手伝いながら、器や飾り付けなどを考えるうえで伝統行事など料理の背景を学ぶ機会が多くなりました。その一方で、周りの大人達の生活スタイルはどんどん洋風化し、食事内容も和食に対する理解も関心もすたれる方向にあって危機感を感じました。

Q:子供向け講座はどのような目的で開いたのですか。

私は「四季を感じる“心の畑”を耕す」と表現しているのですが、子供の心の畑は柔らかです。しかし何もしなければやがて固くなってしまいます。固くなっても耕すことで、時間はかかるけど柔らかくすることはできます。耕し育てるために、季節ごとの伝統行事を思い起こし意味を考えながら、旬のものを取り入れた料理や和菓子、保存食を作ります。
作ることだけが目的ではないので、遊んだり飾り付けをして伝統の行事を体験しながら、料理を作ります。先日は“節分”にちなみ“豆まき”をして“恵方巻”を作っていただきました。当講座では、持ち帰りを前提で料理作りをします。子供たちの「自分が作った料理を大好きな家族に食べてもらいたい」の心を大切に、そして、家族の団らんの場でも伝統行事などを話題にしてもらいたいためです。

Q:子供たちに和食の献立は人気ですが。

和食だけでなく和菓子も本当は好きですよ。それを特に感じるのは餅菓子で、子供たちには日本人のDNAとして「お餅好き」がしっかり受け継がれていると思います。
子供が自分の好きな味を知っておくため、本講座では味比べをして自分の「味覚シート」を記録させています。例えば“おみそ”でも、米麹みそ(白、赤)、豆麹みそ、麦麹みそなど甘味酸味などそれぞれ違うからです。子供の味覚はしっかりしており、カツオ、コンブ、ニボシ、合わせだしの、それぞれ違いを区別できます。でも意識しない、耕すことをしなければ、やがて麻痺してしまうのです。

Q:多くの学校が給食に和食献立を取り入れるようになりました。

とても良いことだと思います。その一方で残念なのは、献立に合わせて盛りつけられる食器のバラエティや、子供たちの手の大きさに合ったサイズの食器というものが揃えられれば、もっと素晴らしいのですが…。予算的厳しいのでしょうけれど、例えば小学校低学年の子には重くて大きすぎるお碗では、手に持って食べにくいため、結果的に“犬食い”やおかしなお碗の持ち方の習慣になってしまうという弊害が気になります。
また配膳の工夫で食べこぼしや悪い姿勢を矯正することは可能です。ご飯は左、汁物は右、主菜の皿を奥に置くのが和食の決まりですが、これは床で低い位置に膳を置いて食事していた時代の名残。食器や食べ物を見る角度や手の動かし方はテーブルに乗った状態とは全く違います。テーブルを使うのが当たり前の現在では、汁物は奥で主菜を手前に置いた方が、汁椀に引っかけたり主菜を食べこぼしたりすることが改善されるかもしれません。本来の日本の和食卓の決まりを、子供たちにしっかりと教えた上であれば、事情に合わせて変えていくこともあっていいと思います。歴史の流れという大きな時間軸で捉えた時、今日伝わっている色々な決まり事も、ずっと不変だったのではなく、変遷を経てきていることもあるのですから。

ページの上へ