食育キーパーソン

しょうゆもの知り博士は先生をサポートします

日本醤油協会が食育を通した貢献事業の一つとする「しょうゆもの知り博士の出前授業」(以下、出前授業)で、“もの知り博士”の一人としてこれまで約100校前後での授業を受け持った八尋さん。今でも不安と緊張感がある一方、驚きや興味を感じた事への反応がとても素直で、授業は面白いと語ります。学校には「先生方は教える専門家ですが、専門知識が必要な場面は、外部の人材と連携すればより効果的な授業ができる。我々の出前授業をうまく使ってほしい」と活用を呼びかけます。

八尋猛(やひろ たけし)

八尋猛(やひろ たけし)

日本醤油協会・全国醤油工業協同組合連合会業務部次長。1971年7月生まれ、神奈川県出身。

Q:出前授業の特長とこれまでの成果は。

小学校3年生から6年生が主な対象で、学校や先生方の指導計画に沿って、例えば3年は国語や社会、5年は理科、社会、家庭科、総合的な学習の時間、といった各教科の単元との関連で授業が展開できます。家庭科室を使って1クラス単位で行います。椅子に座って話や映像を「聞く」、「見る」、だけの授業ではなく、「においをかぐ」「触れる」「味見をする」など“五感”を使った体験型の授業です。リアリティを大切にするため実物・現物のサンプルを使います。また一方的な講義ではなく、クイズなどで博士と児童とのやり取りをはさみながら進める双方向型の授業です。
出前授業は平成18年からスタート、今年で12年目。実施した学校数は28年度までの累計で3712校、近年は年間500校以上に上ります。希望が集中するのが2学期ごろですが、ご要望にはなるべく対応したいので、事務局が苦心して調整しています。

Q:博士を務めるのはどのような人。

全国のしょうゆメーカーに勤めている人、又はそのOBが中心です。現在279人が登録されており、出前授業を希望する学校の近隣の博士が訪問します。しょうゆについて熟知しているのは当然ですが、その知識を地域の子どもたちの食育に貢献したいという志しを持った方々。普段の仕事では子供と接する機会がほとんどないので、私もそうなのですが“子どもから元気をもらっています”など“やって良かった”と好評です。
博士の希望者は研修で、出前授業の意義や特長、授業デモの講義を受講するだけでなく、演習を通して流れを学んでもらいます。さらに本番に臨んでは、1度は先輩博士と同行して、実際の学校・学級の空気に触れて感じてもらうという段階を経て、はじめて教壇に立っていただくことになります。

Q:12年間の出前授業でどのような変化を。

授業の進め方や児童の指導、使用する教材などについて、教育現場を熟知する学識経験者方を中心として組織する委員会で、毎年、見直しを行っています。学校の要望や博士の意見を踏まえて、必要な部分は少しずつ変えています。
例えば以前は原料の小麦は、穂の姿の実物を持参して見せていました。しかし時間が経つと黒ずんだり、虫が湧いたりするので、今では実の部分だけを瓶に詰めて見せています。また温めたホットプレートにしょうゆを塗って、においを確認してもらう場面は、以前は各机に一台用意してグループごとに体験してもらいました。それだけの作業でも児童たちに任せると時間がかかる、またやけどの心配もあることから、今は博士のテーブル一カ所だけにして集まってもらいます。そこで見せて、かいでもらい、感想を聞く流れです。

Q:より良い出前授業のため学校に望むこと。

前述のように学校や学識経験者の意見を反映し、出来るだけ改善すべき点はリニューアルしてブラッシュアップしています。しかし最近は児童の食物アレルギーに関してより慎重な対応をする上でも、学校の情報と協力が重要です。原料の小麦はアレルギー特定原材料ですが、「製品のしょうゆ」は、その製造過程でアレルギー物質が分解されているため心配はありません。しかし「もろみ」や「搾りたてのしょうゆ」の段階はまだ確認が出来ていないため、人によってはアレルギー反応を起こす可能性は排除しきれません。出前授業は、その3種類を舐めて味比べする場面があるのですが、それを行うかどうか、子どもたちの食物アレルギー情報をもとに学校に判断していただいています。
私たちはしょうゆの魅力をよく分かっていますから、専門的な知識・情報の部分で先生方のお手伝いができます。先生方が創りたい授業にしょうゆもの知り博士を活用して、子どもたちに楽しい授業を提供してください。

Q:授業を通じての感想や子どもたちへの思いは。

私はこれまで主に首都圏の学校100校ほどで出前授業を経験してきました。始めたころは不安もありましたが、教える内容は熟知しているしょうゆのことですから、自信があります。また事務局と専門委員会が作成した「手引(台本)」があり、これが良く作られていて、その内容に従っていくことで、教材提示や現物を見せるタイミング、子どもたちに質問する場面などが段取り良く進行出来ます。ほぼ想定している場面でほぼ似たような反応になるのですが、それが素直なところが何度経験しても面白いです。
大豆製品としてはみそ、豆腐、きな粉などを食育の関連で手作りするという学校もあります。その中でしょうゆは造ることが難しいので、授業の中で簡単に手造りすることができません。そのため私どもの出前授業は、原料や麹菌、製造途中の「もろみ」などを現物で見てもらい、発酵による変化などを学んでもらっています。
しょうゆは優れた食品であると同時に、日本食を代表する食品です。次世代を担う小学生にしょうゆの正しい知識を知ってもらうことが、将来の日本の食文化を守っていくことにもなると考えます。