食育キーパーソン

野菜を核とした小中学校での食育の取り組み

東京・足立区が取り組む糖尿病対策に重点を置いた「あだちベジタベライフ ~そうだ、野菜を食べよう~」の取り組み。厚生労働省の第6回「健康寿命をのばそう! アワード」(2017年11月)で、同省健康局長優良賞を受賞しました。この取り組みの基本方針には「野菜を食べやすい環境づくり」、「子供の頃からの良い生活習慣の定着」などがあります。その実現のために2017年3月、新たに足立区糖尿病対策アクションプラン「おいしい給食・食育対策編」が策定されました。同プランでは①1日3食野菜を食べるなど、望ましい食習慣を身につける、②栄養バランスの良い食事を選択できる、③簡単な料理を作ることができる…3点を「あだち 食のスタンダード」と定め、中学校卒業時までにすべての子供が、健康に生き抜くための実践力を身につけることを目指しています。この取り組みについて、同区の小中学校における「おいしい給食」そして食育を担当する、教育委員会学校教育部学務課おいしい給食担当係長・渋谷敏さんにお聞きました。

渋谷敏(シブヤ サトシ)

渋谷敏(シブヤ サトシ)

平成4年4月 足立区職員(一般事務)で採用。 平成28年4月 足立区教育委員会学校教育部学務課おいしい給食担当係長。

Q:「あだちベジタベライフ ~そうだ、野菜を食べよう~」は、どのような理由から始まったのでしょうか。

本区の健康課題として、区民の健康寿命は都平均より約2歳短く、また糖尿病受診件数・医療費は23区で最も高いというのが実態でした(平成24年時点)。1日当たりの野菜摂取量を比べると、長寿県・長野は男性379グラム、女性353グラムでそれぞれ全国1位(厚労省・国民健康栄養調査平成18~22年平均値)。これに対して本区は27年度調査で推計233グラム。国が推奨する1日350グラムには約120グラム不足し、長野県との比較では6割程度でしかないのです。区民の野菜摂取量が国の目標より100グラム以上少ないというデータに注目し、野菜を食べることを糖尿病対策の中心に据えた事業が「あだちベジタベライフ ~そうだ、野菜を食べよう~」です。

Q:以前から「おいしい給食」の取組がありますが。

本区は平成19年から「日本一おいしい給食」をめざし、様々な取組を行ってきました。おいしい給食とは、単に味が良いとか贅沢なものを提供するとかではなく、自然の恵みや生産者、調理員など、給食に関わる人々への感謝の気持ちを育み、心を豊かにすることができる給食と考えます。また給食を生きた教材として、身体にとって大切な食べ物など基礎的な栄養知識を学び、自ら食を選ぶことができるようになることが重要と考えます。
その結果として残菜を減らし、28年度平均残菜率が小学校2・8%(20年度9%)、中学校6・4%(同14%)で、年々着実に成果が上がっています。

Q:「おいしい給食」でも従来から野菜を意識していますね。

例えば、1月は白菜・千寿ねぎ、2月は大根、3月は新玉ねぎなど毎月旬の野菜を使ったメニューを給食で提供する「野菜の日」や、11月下旬には地元JAから地元産の小松菜を無償提供してもらい、小・中全校一斉に「小松菜給食」を実施しています。
また通年で様々な角度から、給食に野菜を取り入れた献立を意識的に取り上げ、「給食だより」やホ-ムページを通じて保護者などにも情報発信しています。
その他においしい給食の取組として、子供たちが学校給食メニューを家庭で考えることで「食」の重要性や「給食」に対して一層親しみを持ってもらい、食べる意欲を高めることを目的で始めた「給食メニューコンクール」には、今年は6,835点(小4,366点、中2,469点)の応募がありました。今年のテーマは、みんなの苦手食材「まごわやさしい」を使った給食を作ろう!でした。応募作品の中から選ばれた1作品は、毎年12月の「あだちオールおいしい給食ウィーク」に全校が共通でその献立を作り食べています。
また中学1年全員が、本区の友好自治体である新潟県魚沼市への自然教室に参加。田植えや稲刈り体験を通じて食べ物や生産者への感謝の気持ちを育んでいます。11月には収穫したお米で、全ての区立保育園、小・中学校が「コシヒカリ給食」を一斉に行っています。

Q:新たに野菜に関して取り組まれていることはありますか。

子供の頃からの良い生活習慣の定着に向け、特に野菜摂取の習慣化を図るために、スローガンを「ひと口目は野菜から。」として、保育園から小中学校まで一貫した取組を今年度から実施しています。具体的には、日々の給食指導やチラシ・ポスターに刷りこみ、校内掲示や全家庭に配付して保護者にも定着を進めています。

Q:今後の課題など。

おいしい給食の取組を通し、「あだち食のスタンダード」の定着を重点的に展開することで、区の食育をさらに強力に推進していきたいと考えています。また、今年から区内の小6・中2全員を対象で「おいしい給食アンケート」を毎年実施します。その中で「あだち食のスタンダード」への目標がどれだけ達成できたか検証していきます。目標には、中2で「自分一人で、ごはん・みそ汁・目玉焼き程度の朝食を作ることができる」は28年度で76%でしたが34年度までにそれを100%に、「食事のときに一番はじめに野菜から食べる子供の割合」は28年度で22.1%でしたが34年度までにそれを90%にするなどを掲げて、達成に向けて取組を進めていきます。