食育キーパーソン

誰もが栄養学の基礎にアクセスできる環境が大切

「特定の食品だけで、健康になるとかダイエットになるといった単純なことではないことをあまりにも皆が知らない。栄養の基礎知識を知りたい人が、他にもたくさんいるのではないか」…栄養検定をはじめたのは、栄養について知りたかった自身の体験が出発点だったそうです。大人の生涯学習としての食育を担う栄養検定について、栄養検定協会代表理事の松崎恵理さんから開発・運営の思いを伺いました。

松崎恵理(マツザキ エリ)

松崎恵理(マツザキ エリ)

一般社団法人栄養検定協会代表理事。栄養学修士。専門分野は栄養疫学。日本栄養・食糧学会会員。札幌市出身。慶應義塾大学卒業。政府系金融機関を退職後、2013年女子栄養大学大学院に入学、現在は博士後期課程在籍。減塩の取組みとして「片手ですり切れる計量スプーン」や食事レシピの開発も行っている。著書に「ホントによく効く油の正しい選び方・使い方」(共著)など。

Q:栄養検定とはどのような内容ですか。

誰もが受検できて、受検の勉強を通して栄養学の基礎を学ぶことができます。食べた物がどの様に体に吸収され働くのかを理解できることが目的です。現在は「入門」「初級」の2段階構成で、2016年度末に第1回をスタートし、17年度は各2回の実施、18年度から「入門」はCBT(Computer Based Testing)方式で随時、「初級」は年3回を予定しています。

Q:栄養の検定を作ろうとしたきっかけは何ですか。

母が病気になったことがきっかけで、食事から見直したいと思い立った事です。私自身はル・コルドン・ブルーを卒業しており、料理は普通以上に作れる自信はあったのですが、健康的な食事や食べ方とはどうすれば良いのかといった知識が全くないことに気付いたのです。

Q:料理を作れることと栄養学とは別なのですね。

もともと料理は好きでしたから、平日はサラリーマン生活、週末コースでお料理とお菓子作りと両方を習得し、良い成績で卒業させて頂きました。その時点ではかなりのレベルの料理も作れるようになり満足でした。ところが母親が病気になり、体に良い食事や食べ方とは何かとなるとわからないのです。
そこで勉強できるものがないかいろいろ探しました。でも専門的過ぎて特定分野だけだったり、関係業界に偏っていたりで、なかなか求めるものがないことが分かりました。世の中はこれだけ健康とか食事が大切だと注目されているのに、なぜないのかが不思議でした。

Q:学びたい場所は見つかりましたか。

たまたまですが、当時は女子栄養大学短期大学部に夜間の講座があって、仕事をしながらなので通えたのは厳選して2科目程度でしたが、聴講生として1年間授業を聞かせて頂きました。そこで履修した「基礎栄養学」は栄養士になる方の必修教科ですが、受講した時「なんで皆これを知らないんだろう」という位、栄養のしくみというか、食べ物が体の中でどのように吸収され利用されていくのか、本当に基本的な消化吸収・代謝から含めて学びました。
特定の食品だけとっていれば痩せるとか健康になるといった、単純なことではないことを皆が知らないから、単品ダイエットとかこれだけで大丈夫といった話になってしまうのだろうなと強く思いました。このような知識を、もっと知りたいと思っている人が気軽にアクセスして知ることができる環境を作ろうと考えました。こういうことを知りたいのは、多分私だけではないのではないかと思ったのです。

Q:検定の目的はどのようなものですか。

誰でも栄養について学べるツールを作ることは、会社を辞める頃すでに自分の中では決めていました。まず専門分野を持つため大学院で学ぶことにして、その時期に、検定という形で勉強する環境を整えていくことが結びつきました。大学院に入学した年の12月に協会組織だけは登記しましたが、実際に検定を作ることに着手したのは修士を卒業してからです。
これまでの受検者全体で男性は2~3割ですが、40代位で、本当に自分の健康で困っている方が多いです。例えば血液検査で引っかかって、管理栄養士から指導を受けているけれど効果が出ない。だから自分でも栄養について基本から勉強したいと。
栄養や食事についての関心を高め、知識の底上げになれば良いですね。普通の方に向けた学びの場、といったところでやらせていただいています。ご自分や家族のために食生活を見直していただくために、まずはお使いくださいというスタンスです。

Q:生涯学習の一つに位置づけられますね。

高校、大学時代や若い世代のうちに基礎的なことを知っておくことは大切ですし、社会人になってから食生活が乱れてしまった人でも、ある程度の年齢になった時、健康面が気になることはあると思います。そんな時に改めて、きちんと勉強しようかという切っ掛けにして頂けるとうれしいです。
栄養学の正しい情報が一般の人に分かりやすく伝わっていない、専門家にしか共有されていない状況がすごく問題だと思っています。専門家でなくても誰もがある程度は勉強して知っている環境づくりに貢献したいと思っています。

Q:協会として今後の計画はどの様ですか。

食事生活と健康に関する皆さんからの質問を、全部は難しいのでピックアップして、具体的に回答するWeb上のコーナーを作れないか思案中です。また、健康的な食事を実践いただくためのツールとして「片手ですり切れる計量スプーン」を開発しましたので、これを使って手軽にきちんと計量することで減塩にも取り組んでいただける環境を整えていきたいと思っています。自分の食事を見直していただく通信教育も開始し、アドバイスとコメントを添削してお返ししています。
通信教育とWebで誰もがアクセスできる栄養情報と健康的な食事を実践しやすい環境とが両輪となることで、協会としてより充実した活動が可能だと思います。