食育キーパーソン

身近な食材の海老から食品ロスやSDGsを考える

正月のおせち料理をはじめ日本の伝統料理に欠かせない食材の海老。子どもに人気の定番寿司ネタでもあります。そんな身近な海老は、頭やひげから尻尾まで捨てるところがない、食品ロスの点でも優等生。一般社団法人日本海老協会は昨年、約16万人、1000校以上の子どもたちに食育の教材として海老を提供。出前授業の殻むき体験などを通じて、海老についての知識を深める活動を展開しました。「海老をきっかけにして地域のまちおこしや海への探究につながった例もあります」と語る同協会 理事・藤井稚代さんに、海老と食育の関係性を聞きました。

藤井稚代(フジイ ワカヨ)

藤井稚代(フジイ ワカヨ)

一般社団法人日本海老協会 理事
水産会社創業家の出身。海老市場の関係各社との連携で、「日本海老協会」をはじめ、海老食を広げる各種の活動を企画推進に携わっている。キャッチフレーズは「海老で食卓を笑顔にする!」

Q:日本海老協会とはどのような目的で活動しているのですか。

日本で海老は、長寿の象徴として古くからお祝いの席に欠かせないものでした。またおいしく優れた栄養価がある身近な食材。日本の食文化を代表するものの一つです。そこで海老の加工専門業者を中心に水産関係者が連携して、2014年設立しました。毎年9月第3日曜日・敬老の日を「海老の日®」として、家族みんなで海老を食べて祝いながら「海老食」を盛り上げましょうという趣旨です。海老は身近にある食材ですが、その現状や実態はあまり知られていない。もっと関心を持ちましょうと呼びかけています。
日本では店頭に並ぶ海老の約95%が海外からの輸入に頼っています。近年は中国をはじめ各国で水産物の人気を背景に需要が高まり、日本は〝買い負け〟しているのが現状です。日本は規格が厳しく、スーパー等で目にする海老のほとんどがむき海老で、最近は背わたまで抜いています。その殻をむいているのは人件費の安い東南アジア等の人々。一方の中国等ではそのような手間をかけず、そのままコンテナごと買い占めていきます。

Q:出前授業の内容はどのようなものですか。

最初に子ども達には海老の絵を描いてもらいます。何も教えない状態で描くものですから、ムカデやゴキブリのような絵だったり、とても海老には見えない絵になることがあります。子ども達はむき海老や寿司ネタの姿しか見覚えがないようです。
その後、有頭で殻つきの海老を1人1尾ずつ与えます。姿をよく観察してもらい、私達は〝解剖〟と言っている殻むきを体験します。頭や殻の重さは海老全体の半分を占めていること、海老は後退するための足の節のつくりをしていることなどを説明しながら背わたもとり、完成したむき身を具にしておみそ汁を作って食します。殻や頭もお出汁に使います。頭や殻を油と炒めて海老油にするなど、海老は捨てるところがなく、おいしく頂ける優等食材なのだということを体験して学んでもらいます。

Q:海老を教材とすることのメリットは何でしょうか。

血が出ないので、子ども達でも解剖がやりやすいこと。大抵の子どもは血が苦手ですから。解剖することで身体のつくりなどもじっくり見られます。解剖をしてからもう一度、絵を描いてもらうと海老らしい絵になります。ただ殻をむいているだけに見えますが、観察力がついているのです。
海老は身近ですが、みんなが知っているのはむき身の海老。自分で殻をむいて食べて、おいしかった経験を通じて、海の生き物や水辺の環境課題に興味をつなげられます。授業を行った学校の先生方からも、自分達には知らなかったことが多く勉強になった、子ども達が前のめりになって話を聞いていたなどの、うれしい反響をたくさん頂きました。

Q:協会が33万尾以上の海老を無償提供したのはどのような意義からですか。

コロナ禍で在庫を抱えた生産者と、黙食・個食のため楽しさが失われがちな学校給食の、両方に役立てたいと考えて企画しました。フードロス対策と同時に食育にもつながる意義があります。農林水産省の国産農林水産物等販路多様化緊急対策事業を活用し、2021年度で2回に分け、有頭クルマエビ総計33万7000尾を、小・中学校、幼・保育園、子ども食堂等、1031施設・16万2000人の子ども達に無償で配布しました。さらに海老アレルギーの子どもに配慮し、小中学校21校、子ども食堂等250か所には北海道産ホタテ5890キロ・7万8000匹を贈りました。

Q:無償提供の反響や成果はいかがでしたか。

寄贈先には大日本水産会監修の小冊子「これでキミもエビ博士」や当協会が制作した海老の殻のむき方を解説したYouTube動画「海老の解剖教室」を紹介し、食育レポートの返送を義務としました。担任の指導で殻むきを実践した、有頭の海老を初めて見ましたという報告も集まっています。またこれがきっかけで出前授業を実施した学校の一つである神奈川県三浦市の小学校では、地場食材の伊勢海老を使った「みうらめん」を開発するプロジェクトがスタートしました。6年生の子ども達からの発案を、担任をはじめ先生方がリードして下さり、学校長等の管理職が推進体制を整えるなど、学校を上げた取組になっているようです。