食育キーパーソン

『出前授業』続けて13年、海苔ファンを増やしたい

"海苔とごはん"は和食の定番の組み合わせ。ただ、身近すぎるため、海苔の生産だけでなく、家庭での取り扱いなどについて正しく答えられる人は少ないのではないでしょうか。また、「海苔はどれも大差ない」と無意識に考えている人も多いはず。しかし海苔は、海況や産地、収穫のタイミングなどによってその味や香り、食感などが様々に変化し、ひとつとして同じ商品がないと言われています。「それは海苔が極めて加工度が低く、素材そのままの食品だからです。知識だけでなく体験を通じて、そうした事を子供たちに伝えたい」と語る、海苔で健康推進委員会の斉藤徹さんに、同会の取組や食育への提案などを聞きました。

斉藤徹(サイトウ トオル)

斉藤徹(サイトウ トオル)

海苔で健康推進委員会関東ブロック副代表、有限会社中川海苔店代表取締役、昭和45年千葉県生まれ。千葉県木更津市にある昭和32年創業の老舗海苔問屋、中川海苔店の三代目。平成2年、千葉情報経理専門学校卒業後、3年半のIT企業勤務を経て、平成6年に家業である同社に入社。平成8年より海苔で健康推進委員会の活動に参加。平成25年より現職。

Q:海苔で健康推進委員会が出前授業を始めたきっかけは?

今から13年前の平成16年、千葉県船橋市のある小学校の総合的な学習の時間(総合学習)で海苔を年間テーマに採り上げていただき、その中の授業に呼んでいただいたのが最初でした。その後、担当された先生の異動などを通じて他の学校にも広がりました。関東の海苔産地でもある船橋市とその隣の市川市は今でも実施の多い地域です。
講師役を務めるのが海苔を商う我々自身ですから、海苔の収穫と仕入れの時期である毎年11月から2月くらいまでは対応できませんが、大人向けの講座も含めて延べ100回以上は実施してきたと思います。その目的は、海苔に関心をもっていただくことはもちろんですが、私たち自身が海苔について学び直すことにもあります。今では関東だけでなく、地域の偏りはありますが、全国でも取り組んでいます。

Q:主にどの様な授業内容ですか?

小学校では給食前の3~4時限目の2時限をお借りします。対象としているのは主に小学3年生から5年生で、学年単位の実施が多いですね。3時限目は海苔の生態や生産などについて映像も交えながら、クイズ形式で進めます。4時限目には、全型(大判)の乾海苔を一枚ずつ渡して、電気コンロで半分だけ焼いてもらい、乾海苔と焼海苔の違いを色や香り、味、食感で感じてもらいます。さらに、焼くと色が変わる仕組みを、海苔が含む色素を模したカラー下敷きを重ね合わせて再現したりもします。
また当会では、手軽で団欒になる食事として「手まきごはん」の普及を進めております。ご担当の先生を通じて米飯給食の日を調整してもらい、授業を受けたクラスだけですが、当会から提供するご飯用のスプーンと海苔で、給食に「手まきごはん」食べてもらうことも多いです。伝統食材としてだけでなく、こうした新しい食提案にも取り組んでいます。

Q:実施の苦労はありますか?

始まったころは不慣れなうえに手本もなく、すべてが手探りでした。関心をうまく引き出さないと子供たちは話を聞いてくれませんし、同じ内容なのにクラスによって反応が異なることもよくあります。こちらの問いかけに対して手が上がりにくい時は質問の仕方に戸惑いました。ただ、現在では改善を重ねてきた授業のモデルプランと、私たち自身が経験を積んだことによって、スムーズに進行できるようになりました。

Q:授業で子供たちの興味関心はどの様ですか?

初めて授業を行った時に「もっと早くからやるべきだった」と強く感じました。食卓の海苔の姿のまま採れると思っている子もいて、想像以上に「海苔が知られていない」ことを知り、愕然としました。しかしそこは体験と食品の強みといいますか、改めて海苔に触れ、習った内容と、実験や体験がリンクすると「おー」と感心の声が上がります。実際に食べればどの子も「おいしい、おいしい」と笑顔があふれます。

Q:知ってほしい海苔の栄養価は?

海苔は「海の野菜」とも言われ、様々なビタミン、ミネラルを含む食品です。しかし、全型でも1枚わずか3グラム程度で、残念ながら海苔だけで栄養面への寄与は難しく、毎日少しずつ食べることで栄養の底上げをしていただければと思います。また海苔のもうひとつの特徴として "うまみ"が挙げられます。海苔にはコンブに代表されるグルタミン酸、干しシイタケのグアニル酸の他に、植物でありながら、かつお節のイノシン酸という動物性のうまみ成分も含まれる珍しい食品です。手軽に使える天然のうまみ食材として和え物や汁物などにも活用して欲しいですね。特に子供たちは海苔で食が進むことがありますので、上手に活用していただきたいと思います。

Q:子供たちに伝えたい海苔の特徴は?

今では食卓の定番食材の海苔ですが、わずかな海況の変化などに大きく左右される作物で、かつては嗜好品でした。海苔の価格と質には関係性があり、一般に口解けがよく味を感じやすいものほど高価で、その逆に行くほど価格は下がります。巻き物などには解けやすい海苔は適さないので、一概に高いからいいとは言えませんが、こうした価格の特性もあって、給食でおいしいと感じてもらえる海苔を出していただくのはなかなか難しい状況です。
ご家庭でも、価格だけで選ばれることが多いと思いますが、手まきずしや手まきごはんなどの時には、少し値の張るものをお使いいただくと、歯切れや風味がよく、いつもよりおいしく召し上がっていただけると思います。「海苔はどれも同じ」ではなく、用途で使い分けていただきたいですね。
また保存方法も重要です。海苔は特に湿気を嫌いますので、開封したら早めに食べきってください。残ってしまう場合は1/4サイズなど、使いやすいサイズに切ってから、密閉できる容器などに乾燥剤と一緒に入れて常温で保存してください。こうしておけば湿気たり、古くなったりしないうちに使い切れると思います。もちろん、取り出したらすぐにフタをしてください。

Q:出前授業に取り組んで感じたことは?

私たちの授業は総合学習の一環として始まりましたが、いまは社会科の地域学習に組み込まれることも多く、主に学級・学年担任の先生と内容の調整をします。ただ、食材としての魅力や活用方法、食文化を伝えるといった面で栄養教諭・栄養士や家庭科の先生たちとの連携ももっと図りたいですね。