食育キーパーソン

様々な人との“共食”が信頼感と自信を養う

地域の小中学生が希望すれば無料で、宿題や勉強をほぼマンツーマンで見てもらえる「ひろはた自習・相談室」(以下、「教室」)。勉強でお腹が空いたら併設の「みんなの食堂☆広畑」(以下、「食堂」)で、旬の野菜たっぷり手作り夕ご飯が待っている…「ここを“卒業”した子は、成績が伸びる子が多い」と語る教室代表・内田さんと、食堂代表の前田裕美さんに話を聞きました。色々な人が一緒に食事する“共食”から、育まれた人への信頼感が自信となり、学習面の向上につながっているようです。

江川永(エガワ ヒサシ)

内田克代(ウチダ カツヨ)

1950年生まれ、静岡県出身。会社勤務を経て、神奈川県・秦野市内の小学校に教員として長年勤務。退職後、退職した教員等に呼びかけ、地域の小中学生にボランティアで学習指導する「ひろはた自習・相談室」をはじめる。2018年(公財)社会貢献支援財団の第51回社会貢献者表彰を受賞。現在、同教室代表。

 

Q:教室はどのような経緯からはじめたのですか。

地域の小学校で長年勤務させていただいたので、その恩返しには何ができるか。それには、格差のある子供たちの勉強を見てあげることが一番ではないかということで始めました。場所は市の施設で、私達は全員ボランティアで関わっています。
小学校は原則として自分の教科書を持って来て宿題を片付け、他に算数と国語。週2回で1人1回1時間ずつ、先生1人が子供3~5人を見ます。登録制で現在は延べ50人以上いますね。
中学生は数学・英語を基本は1対1で、教科別ですが同じ先生がずっと指導します。5時30分から8時まで週2回。曜日を変えて別に不登校の子も見ています。
社会貢献者表彰で頂いた奨励金で、個別指導用の携帯ホワイトボードを購入したり、子供たちの行き帰りの傷害保険をかけることがはじめてできました。さらに地域の社会福祉協議会や教育事務所からも支援を受けられるようになりました。

Q:教室は子供たちにとってどのような場所でしょうか。

小学生はまだ遊び半分の子もいますが、中学生は意欲を持って来ます。どうしても地元の公立高校に入りたい等、目的があるので真面目に通って来ます。先生は元教員だけでなく、企業をリタイアした男性は理科系の方が多く、主に数学をみて頂きます。相手にしているのは勉強に自信が持てない子が多く、つまずきから出直すことで、教え教わる双方にやりがいが湧きます。元大学教授の先生が昨年教えた子は、大学に行きたいからと、高校生になっても教室に来ています。不思議ですが、高校に入ってから成績が伸びる子が多いですね。
ここでは1対1での勉強。教室を“卒業”するまで短くても半年、長い子は3年間どっぷり同じ先生と相対していくものですから、自分なりの実力も分かるし、大人から信頼してもらっているという自信が、学習に良い作用をもたらしていると思います。

Q:食堂の運営もボランティアでしょうか。

同じ施設内に調理室があってデイサービスのランチを提供しています。夜は空いているので有効に使おうと、勉強が終わった子供たちが食堂に行って、ご飯を食べて帰るという考えで始めました。開くのは月2回金曜日、登録制です。ご飯だけ食べに来る子供や、地域のお年寄り、教室の子供の保護者も来ます。
食堂オープンは6時半か7時なので、小学生は開店まで間が空きます。その間、近所にある東海大学からボランティアサークルの学生達が来て遊んでくれるのです。大学生がリーダーシップをとって一斉に“いただきます”と始める給食形式では、ボランティアで調理してくれる人達も学生も先生も、手伝って下さる子供のお母さん達も、入り混じっての食事です。
商工会等地元からの寄付金と、近隣の農家さんがお米・野菜を持ち込んで下さる現物支給で主に賄っています。その他に子供と学生以外は、ボランティアでも大人からは1食300円を会費として頂きます。

Q:食堂を運営するうえでこだわっていることはありますか。

近年は、食育に関する情報といえば例えば「孤食」「個食」「固食」等の話題が目について、子供たちの将来がとても心配です。そのため食堂ではなるべく多様な食材を、特に野菜はたくさん食べてもらうために季節感や調理法を工夫しています。野菜は旬のものを提供して下さるので助かっています。
また必ず手作りデザートを加えています。地域の保育園から、欠席分のパンを当日持って来て頂き、素敵なデザートにリメイクしたこともあります。毎回ほぼ50~60食作るので保健所の指導をうけ、検食をとっています。原則として食材は当日調達として、必ず火を通し、生野菜は提供しません。

Q:食堂は食育の場でもあるのですね。

“一緒に食べる”というその時間がいいですね。勉強を見てくれたり調理してくれたりした大人や、遊んでくれた学生も、みんな一緒に混在して食べることは、子供たちには普段はできない経験でしょう。それを仕切ってくれる学生がいるので乱雑にならない。「手を洗ってきて」「あいさつをしよう」とマナーも指導してくれます。そのような“共食”の経験が子供たちに、人への信頼を育てることに必ず役立つはずです。