食育キーパーソン

「今こそ」楽しい食育の情報源を工夫、緊急時に備えて

新型コロナウイルス感染症拡大の事態をうけ、長期に及ぶ学校の臨時休業。先の見通しがたてられない中、栄養教諭・学校栄養職員を先頭に、学校給食・食育関係者には外出自粛中の子ども達の健康管理や給食再開への備え等の課題が山積み。全国学校栄養士協議会の長島美保子会長は学校給食・食育関係者に向け、今回の緊急事態を教訓にして、こんな状況の「今だからこそ」、保護者・子ども達が楽しめる魅力的な食育情報を工夫しWeb等のツールを活用して発信する等の取組を呼びかけています。
※2020年5月15日、紙上取材

長島美保子(ナガシマ ミホコ)

長島美保子(ナガシマ ミホコ)

1963年より島根県学校栄養職員、2007年~12年島根県栄養教諭、松江市立八雲小学校等に勤務。02年より島根県立大学松江キャンパス保育学科非常勤講師(現職)。01年全国学校栄養士協議会理事、07年同会副会長、12年~同会会長(現職、以下同)。公益財団法人学校給食研究改善協会理事、食育推進評価専門委員(農林水産省)、島根県学校給食衛生管理指導者。

Q:長期にわたる学校給食の休止で、児童生徒の栄養面を含めた健康の維持が気がかりです。特に心配されること、そして家庭・保護者が気を付けて欲しいことは何でしょうか。

学校給食は、成長期における児童生徒の健康の増進を図ることを目的としています。従って、望ましい栄養量を踏まえ、家庭の食事で摂取量が不足していると思われる栄養素については、特に給食で補えるよう配慮がされています。
この度の学校給食休止で、子ども達の食事はすべて家庭にゆだねられることになり、保護者の戸惑いは大きいものがあったと思います。家庭での食事は内容、栄養量共に偏りがちですが、特に不足しやすいカルシウムなどは必要量が摂れない状況があります。給食と家庭の食事との大きな違いの一つは、給食には毎日、成長期に不可欠なカルシウム源である牛乳がついていることがあげられます。
1日全ての食事を家庭で準備することは、負担が大きいと察せられますが、まずは朝食・昼食・夕食をきちんととることで生活リズムを整えること。ごはん等の主食を中心に、主菜・副菜のある食事内容を意識して食べてほしいと思います。

Q:長期の休業期間中の食育について、食育・給食関係者に広く知らせ、取り入れて欲しい活動・実践があれば教えてください。

栄養教諭・学校栄養職員は突然の給食休止で、まずは、献立に伴う給食食材、給食費等学校給食管理業務に追われる毎日だったと思います。そんな中、休校中の子ども達や家庭に対して、栄養教諭等の専門性に基づいて発信できることは何かを考え、状況に応じて工夫を凝らした取り組みが全国各地で行われています。
例えば学校や調理場のホームページにアップして、給食献立の中から家庭で簡単に作ることができる献立、簡単に作れるようアレンジした献立、火を使わず子どもだけでできる料理の紹介などの取り組みがあります。市や町の広報誌やSNSを使った献立紹介や食だより等の発信もあります。
また家庭科等で学んだ、「ごはんとみそ汁」「サラダ」「朝ごはん」などを、家族のために実践する課題を子ども達に宿題として与え、学びを実践に生かす取り組みにした事例もあります。
食の外部化が進んでいる現代、「おうちごはん」を見直す機会になるよう、学校給食の献立が生きた教材となり、取り組みの輪が広がるよう働きかけをしています。

Q:この機会に、普段はできないことをする、という提案があったら教えてください。

この非常事態の中で、世の中は何事も停滞した感が強く、私たち栄養教諭・学校栄養職員も組織的な活動は全くできない状況でした。しかし一般には、情報伝達手段としてオンライン化が進み、様々な働き方も実行に移されています。
例えば同一市内、同一校区などで開催している小グループでの献立検討会や、各学校の代表者による食育担当者会などは、オンラインで行うと効率的にも良いのではと思います。私達も今後にそなえて、オンラインによる伝達手段を活用してみることも必要だと思います。

Q:再開にむけての準備のポイントは何でしょうか。

子ども達の健やかな成長・発達を促すために、1日も早く安全安心な暮らしが戻り、学校給食が再開されるよう望まれます。また、給食再開は、保護者、そして生産の現場や業界など皆さんからも切望されています。
再開に当たっては、調理場や学校の規模により様々な場合が想定されますが、この度の教訓を生かし、従来から行っていたことを改めて点検し、見直すことが必要です。物資の受け入れから学校での喫食、片付けまで一連のあらゆる工程を点検してみる機会にしてはどうでしょうか。
学校においては、コンテナ室や運ぶ通路、教室での配膳など、限られた時間内での活動になるので、密な場面がたくさんあります。大声であいさつを交わす場面もあります。
給食再開に向け、教職員全体で共有しなければならないことをしっかり整理して伝えることが栄養教諭・学校栄養職員に求められている事だと思います。

Q:全国の栄養教諭・学校栄養職員に、「このような時だからこそ」発揮してほしい栄養・健康の専門職としての心構えとは。

栄養教諭・学校栄養職員は、子どもたちの食生活を守り、望ましい食習慣の形成に貢献する役割を担っています。今回の新型コロナウイルス感染症拡大のように、世界規模の予測不能な事柄に遭遇することが今後もあると思われます。このような突発的な危機状況に際して、専門職として何ができるかを常に考えておく必要があります。
例えば、日頃から学校のWebサイトなどを活用して、給食献立はもとより食情報を積極的に発信する仕組みを作っておきましょう。家庭や子ども達から楽しみにされる情報源になっていれば、このような事態に遭遇した時、慌てることなく情報提供ができることになります。
かけがえのない成長期にある子ども達の心身の健康と、生涯にわたる幸せを築くことは、私たち栄養教諭・学校栄養職員の使命です。生きるための基本である「食」の大切さをしっかり伝え、自ら実践することのできる子ども達を育成していきましょう。