食育キーパーソン

子どものさかな離れは本当か

「提供したさかなを子ども達は喜んで食べてくれる。皮まで残さず食べてしまう子が大半でした」「ほとんど残菜はないと聞いています」……主に首都圏の幼・小・中学校で毎年、ニジマスの特別授業(出前授業)と特別給食を実施している全国養鱒振興協会。「ニジマス博士」として学校を訪問し、授業や給食を通して子供たちに接している同会会長理事・小堀彰彦さんは「言われているような子ども達のさかな離れ、さかな嫌いであることが信じられません」と語ります。

小堀彰彦(コボリ アキヒコ)

小堀彰彦(コボリ アキヒコ)

神奈川県横浜市出身、全国養鱒振興協会会長理事。1978年東京水産大学(現・東京海洋大学)増殖学科卒業、同年愛知県淡水養殖漁業協同組合に入職。91年同組合常務理事、翌年全国養鱒振興協会理事、2005年から現職(第6代)。また2012年には鱒・鮎・鯉・鰻養殖団体の統合団体である全国内水面養殖振興協会の初代会長に就任。

Q:ニジマスの特別授業を始めた経緯は何でしょうか。

国産淡水養殖サケ・マスの代表であるニジマスの、優れた栄養価や健康面への安心安全があまり知られていないのではないかという反省から、より身近にニジマスの良さを知ってもらうため『ヘルシー ニジマスくん―虹鱒GOOD』というテーマソングを作りました。大変ノリの良い曲で、CDも作成して子ども達にも喜んでもらえるのではないかと。
それが15年前のことで、CDだけでなく、子ども達に直接ニジマスについての話を聞いてもらい、実際にニジマスに触れて、食べる経験もさせてあげたいと考えて取り組み始めたのです。山や渓流のキャンプ場ではおなじみのさかなですが、特に都会では国産の養殖ニジマスを目にしたり口にしたりという機会は少ないのではないかと思います。

Q:子ども達に授業で特に伝えたいことはどのようなことでしょうか。

日本の国土はどこへ行っても、山があれば木があり、木があるから水がある。だから山の上にも田んぼがあり、池があり川が流れている。海外に行くと感じるのですが、このような風景は日本以外には見られない。木と山を大切に育て管理してきた、昔からの日本人の努力があることを知らなければなりません。日本の豊かで清らかな水で養殖されたニジマスは寄生虫等の心配が全くないので、お刺身等の生食でも安心して食べることができるのです。
ちなみに、近年ではより安全な美味しい生食用に特化して、ニジマス以外にも地域ごとの「ご当地サーモン」を育てて様々な場で普及に努めています。「信州サーモン」(長野)、「ギンヒカリ」(群馬)、「ヤシオマス」(栃木)、「紅富士」(静岡)、「絹姫サーモン」(愛知)、「びわサーモン」(滋賀)などがあります。今後は地産地消の食材の一つとしても、地元関係者の間で注目されるのではないでしょうか。

Q:授業を通じて子ども達に接して考えることは何でしょう。

今まで訪問したどこの学校でも、授業後のニジマスを使った給食で「食べ残しがない」と聞いて驚いています。一般に子ども達はさかなを食べない、食べ残しが多いと聞いていますが全くそのようなことはない。みんな喜んでくれて、料理によると思いますが、皮まできれいに残さず食べてくれる子もいました。また最後まで手を付けない子がいて、さかな嫌いかと思ったら、「おいしい物はとっといて最後に食べる」と言っていました。
本当に子どもはさかな嫌いなのだろうかと疑問に思います。骨があって食べにくいことも敬遠される一因だと言われますが、以前おじゃました学校の先生が「さかなには骨がある、骨があるから泳げるのだ」と話すのを聞き、なるほどと思いました。大切なのは先生や保護者の導き方なのではないでしょうか。
むしろ日常的に家庭で食べていないから、食べ慣れていないだけなのではないでしょうか。肉に比べさかなは割高だし、扱いにくいと思います。骨や皮、内臓などの廃棄物があれば臭いもあります。専用の調理器具を必要とすることもあります。忙しい家庭ではなかなか大変だと思いますが、栄養バランスにも優れたさかなを是非子どもに食べさせてあげて欲しいですね。

Q:これまで特別授業を展開してきた経験から感じることは。

当たり前のことなのですが学校とは〝コミュニケーション〟が大事だと思います。私達も学校もお互いに知らない分からない部分ばかりなので、授業を実りある時間にするためには小さなことも含めて、事前の打合せや確認が大切です。
みな学校は同じであるわけではないのです。存在する地域ごとに特性があります。その授業に何を期待するのかは学校ごと、また先生によって違うことがあります。我々は養鱒と水産業のプロでありますが、授業は先生方がプロフェッショナル。子ども達には、両者がうまく連携することで充実した授業の提供ができると思います。