食育キーパーソン

発酵文化の伝道師を増やしたい

味噌、醤油、酒など日常の食卓にある発酵食品は、伝統的な日本の食事に欠かせない食材である一方、身近にあるためその栄養価値や健康への効果、生産過程などをきちんと知る機会はあまりないのではないでしょうか。「発酵は日本の文化です」という横山代表は「発酵文化」の正しい普及のため、「発酵教室」や「発酵マイスター」「発酵プロフェッショナル」制度、「発酵検定」を運営し「発酵文化の伝道師」を育成しています。

横山貴子(ヨコヤマ タカコ)

横山貴子(ヨコヤマ タカコ)

一般社団法人日本発酵文化協会 代表理事
1997年東京・恵比寿に飲食店をオープン。その後10店舗ほど飲食店を経営。2010年に東京・祐天寺で「発酵食堂・豆種菌」を開業と同時に発酵教室を開始。12年「発酵で日本をつなぐ」をテーマに一般社団法人日本発酵文化協会を立ち上げ、発酵マイスター講座を開催。21年現在、健康をテーマとした飲食店経営と共に文化としての発酵食の継承を目的に協会を運営する。

Q:協会名「発酵文化」にはどのような意味が込められているのでしょうか。

日本には伝統的に、各地に様々な種類の発酵食品があり、大切に受け継がれてきました。その地域の食文化と切り離すことができません。食品としての発酵食品の栄養価や健康・美容に果たす役割を知るだけでなく、その食品の背景に必ずある地理や気候風土、歴史を含めて大切にして受け継いでいくという意味で「発酵文化」です。

Q:協会の設立はどの様な経緯でしょうか。

2012年の協会設立に先立つ2010年、「発酵食堂」というレストランを経営しており、当時は健康食品として発酵食品が注目されていました。代表的だったのはヨーグルトや麹などでしたが、どちらかというと「発酵食品ブーム」で理解が足りていないと感じていました。そこで発酵の仕組みや発酵食品づくりについて学べる場として、お店を使って昼間は「発酵教室」としてオープンしました。
その翌年2011年3月の東日本大震災を経験したことから、保存食としての発酵食品に興味を持たれる方がさらに増えました。
これだけ関心が集まるのだから、発酵食品について正しく伝える「伝道師」が必要だろうと考え、当協会の設立とその後の「発酵マイスター養成講座」、「発酵プロフェッショナル養成講座」、「発酵検定」等の開設に発展していきました。
発酵の世界は奥深いもので、知れば知るほどもっと学びたくなるのです。当協会の教室や養成講座で使用する全てのテキストは、東京農業大学・醸造科学科教授の柏木豊先生はじめ専門家の方が監修してくださった、醸造学の最新情報が学べる内容です。

Q:伝道師の育成として「発酵マイスター養成講座」等の仕組みと成果はいかがですか。

最初の事業だった「発酵教室」は、甘酒、味噌、醤油、麹という4科目の「ベーシック講座」となり、発酵マイスターには受講が必須です。
発酵マイスターは当協会の認定資格で、現在までのところ資格取得者は約650人。より深く発酵菌、発酵栄養学、エビデンスや食品マーケティング等を学んでいただく発酵プロフェッショナル資格は約170人が取得しています。
資格を取得されているのは様々な立場の方で、本人やご家族の健康のためより深く発酵食品を学びたいという主婦、料理教室の先生や料理研究家、飲食店で働いている方、食品関係の会社にお勤めの方、地域のお米屋さん漬物屋さん、酒屋さんもいます。
塾を経営されている方が塾生に呼びかけて、塾の教室で「親子味噌作り」体験を開催してくださった例もあります。このように各地域で発酵マイスターが核になり、伝播していく活動がみられます。

Q:「発酵検定」はどのような目的で始まったのでしょうか。

第1回「発酵検定」は2018年から、年1回11月最終日曜日に実施、今年度は先ごろ終了したところです。農林水産省に後援を頂き、多くの方に発酵食品の基礎を学んでいただくための入り口として開設しました。今回の受検者は約350人で、20代から70代までの各年代に広がっています。合格者には「発酵文化人」の称号が与えられます。
受検には、当協会制作の公式テキストで基本的な知識を学んでいただく必要がありますが、それ以外に必要条件はないので、発酵に興味がある方はどなたでも受検できます。前回からオンライン受検も併用し、全国どこでも受検可能になっています。

Q:協会としては食育についてどのように考えますか。

現在は特に若い人の朝食の欠食、また、ご飯・味噌汁・お漬物といった伝統的な朝食スタイルよりシリアルやファストフードで手軽に済ませる傾向が多いようです。それらの食事ばかりでなく、日本人のDNAに組み込まれている発酵食品を基本にした和食中心の食卓を大切にして頂きたい。
「発酵文化」の伝導がそこで求められることになると思います。親子で味噌作りなど、子どもの時ほど、体験を通して発酵文化の奥深い世界に触れて、興味関心を持ってもらえたら素晴らしいと思います。当協会としてもそこにお手伝いできる部分があるのではないでしょうか。