食育キーパーソン

学校給食と病院が共同研究で「おいしい減塩食」の提供を実現

大阪府吹田市は「学校給食を活用した子供の適切な食塩摂取に向けた食育」として、国立循環器病研究センター(国循)が開発した適切な食塩摂取の習慣を身につけさせる減塩メニュー「かるしお®レシピ」の手法を、学校給食に取入れ「かるしお®アレンジ」献立として検討・開発する共同研究に着手。今年1月17日、同市内の小学校に同レシピによる初めての給食が実施された。同教委の担当者として共同研究を推進する杉村知佐子さんに、同レシピ導入の目的や共同研究の背景などを聞いた。

杉村知佐子(すぎむら ちさこ)

杉村知佐子(すぎむら ちさこ)

Q:学校給食で初めての「かるしお®アレンジ」献立、児童などからの評判はいかがでしたか。

提供したのは「春菊とさつまいもの天ぷら」で、味付けには塩を「かつお節」に置き換えて、塩の使用量をゼロにしたものでした。いつもの「かきあげ」に比べると、味が少し薄く感じたものの、児童・教職員からは「おいしかった」「いつものかき揚げとの違いがわからなかった」といった声が寄せられました。

Q:「かるしお®アレンジ」を学校給食の献立に取入れた背景、導入のメリットは何でしょうか。

児童・生徒の食事状況調査では、塩分・脂質の目標値を超える過剰摂取や食物繊維の摂取不足など、生活習慣病に関する栄養素の過不足が指摘されています。さらに脂質や食物繊維は学校給食がある日は過不足が少なかったのですが、塩分は給食の有無にかかわらず過剰に摂取しているという結果でした。塩分の摂取量をできる限り抑えることが、学校や家庭を問わず食環境の改善の課題です。このため学校給食では学校給食摂取基準が見直され、例えば小学生で1食当たり0.5g程度の減塩は、献立作成上非常に困難なものでした。数字合わせならできますが、「味がない・美味しくない」と残食量が増えてしまっては、必要な栄養摂取が困難となります。
さらにこの問題は、家庭での食事も含めた食環境の見直しも必要となってくることから、吹田市の健康医療部門と学校教育部門の双方での課題となりました。
塩分の過剰摂取は生活習慣病を引き起こす原因のひとつですが、味覚を形成する大切な時期から「濃い味付け」に慣れてしまうと、大人になってから薄味を受け入れることが難しくなります。生活習慣病は大人だけの問題ではないため、子供の頃から適切な塩分の摂取を意識した食生活を身につけることが大切です。吹田市には、おいしい減塩メニュー「かるしお®レシピ」を病院食として提供している国循があることから、共同研究として「グルメな減塩!かるしお大作戦」が始まりました。共同研究は「塩分の摂取量」に着目して、市民の生活習慣病予防と健康寿命延伸が大きな目標です。研究の導入を学校給食とすることで、子供と保護者などに向けて啓発できることになりました。今回の共同研究では、一つの献立に対して様々な配合の調味料の提案や手法などもあり、おいしく減塩するためのあらたな気づきもありました。

Q:「食の指導」等で「かるしお®アレンジ」献立はどの様に組み入れる計画でしょうか。

生活習慣病については、保健の指導内容に含まれていますが、今回の取組としての具体的な計画はまだありません。ただ、児童への啓発として「きゅうしょくのおしらせ」や動画を活用しました。「きゅうしょくのおしらせ」は、従来から給食時間の食育の取組として作成している日めくりカレンダーのような形式で、配食図と共に給食や食材のコメント・食育クイズなどを盛り込んだものです。提供日には、国循からのコメントを掲載し児童たちの意識付けを行いました。動画は生活習慣病やそのリスク、減塩・献立の開発、担当者の思いなどを盛り込んだ内容で、7分程度の長編と3分程度の短編です。これを「かるしお®アレンジ」献立の提供日などにクラスで投影してもらいました。児童のタブレット端末からも視聴できるようにしました。

Q:学校給食から家庭(保護者)や地域に、今後どのように啓発を進める予定ですか。

「かるしお®アレンジ」の献立提供は2023年1月からでしたが、家庭への啓発は昨年9月から「グルメな減塩!かるしお大作戦」のコメント欄を、予定献立表に掲載しています。ひとことコメントと二次元コードを掲載し、吹田市や国循の共同研究に関連する内容やその啓発、アンケートやクイズなどを見ることができるようになっています。毎月新しい情報を更新しており、保護者に限らず児童でも見やすい内容になっています。この他、今後は親子対象の「料理講座」や保護者対象の「食育講座」なども予定しています。

Q:学校給食の現状である食塩相当量2.3gは、他地区と比較して概ね平均的な量でしょうか。

学校給食の基準とされる栄養価は、学校給食摂取基準で定められていますが、食塩相当量の引き下げは本市に限らずどこの自治体でも苦労されていると思います。学校給食は心身の発達や食育の観点からも、医療的な配慮が無い限り、すべて食べることが前提になりますが、味の変化や嗜好など、児童の反応は顕著に表れます。計算上の減塩で提供しても、残食量が増えるような味付けでは、児童にとって必要な栄養量の確保ができず、好ましい給食の提供とは言えません。このため、本市の一か月の平均食塩相当量が他地区と比べて平均的であるかはわかりませんが、美味しく減塩することにどこも苦慮されていて、なかなか基準値まで引き下げることができない状況があると聞いています。

Q:「おいしく」「減塩」の実現には、どのような工夫がありましたか。

一般的に減塩の手法は「旨味を追加する」「酸味や香味野菜を取り入れる」「香ばしさを出す」「彩りも大切にする」などです。この他、従来から学校給食では特に留意していた「新鮮な旬のものを使用する」ことは、味付けでごまかさなくても素材本来の味を引き立たせることができるため、減塩につながっていました。学校給食の調理現場は当日調理が基本ですから、野菜を切るのも当日です。切ってすぐに調理にかかれることが、切ってからの時間経過に伴い出てくる野菜のアクを抑え、調味料でごまかす必要もなく減塩につながります。この効果は今回の取り組みの中で新たな気づきとなりました。取り組み前の塩分摂取は月平均で2.3gでしたが、提供を開始した今年1月からは2.3gを切り、2.0gになった月もあり、成果が表れていると感じています。
まただし汁の取り方ひとつでも、味が変化します。水をだし汁に変えることで減塩につながる献立もありましたので、その取り方がとても重要になりました。だしの種類でも取り方には違いがあり、家庭と学校現場でも取り方には違いがあります。学校現場でも食数により取り方が異なることもあるので、情報交換を行いどのように工夫するのが良いのかを協議しました。その結果、目安となる時間や味見をすることなどを、調理員に対しては改めて研修などで周知しました。