別世界ではない、テーブルの向こう側に思いを
TABLE FOR TWO International(TFT、代表理事=小暮真久)は2007年10月から活動を始め、現在は開発途上国5か国の貧困地域の子ども達の学校給食を支援しており、累計支援給食数は約1億300万食(2023年12月末現在)である。活動に賛同する企業の社員食堂や店舗で対象のTFTヘルシーメニューを購入すると、支援地域の給食1食分相当の20円が寄付となる仕組み。さらに投稿写真1枚当たり100円(5食分)が寄付される「おにぎりアクション」は2023年で9回目となった。TFT事務局長の土井暁子さんは同プロジェクトについて、「学校で参加することでSDGsについて学び実践する機会にしてほしい」と呼び掛けている。
土井暁子(ドイ アキコ)
TABLE FOR TWO International(TFT)事務局長。明治大学公共政策大学院 ガバナンス研究科修了。 西武百貨店で経理のキャリアをスタートし、 ウォルト・ディズニー・ジャパン、 ビー・ブラウンエースクラップジャパン(独医療機器メーカー)の外資法人で財務経理全般に携わる。 2009年からTFTのサポーター、2019年に職員として入職。東京都食品ロス削減パートナーシップ会議委員。
Q:TFTの活動はどのような経緯で始まったのですか。
TFTを直訳すると「二人のための食卓」ですが、私たち先進国の人々と途上国の子どもたちが同じテーブルについて食事を分けあうというコンセプトです。世界が大きな一つの食卓であるというイメージで名づけられました。世界の人口80億人のうち8億人が飢餓で苦しんでいる一方、20億人が飽食による肥満などの生活習慣病に起因する病気で苦しんでいます。このような食の不均衡を解消したいという思いから始まりました。
Q:「支援する人とされる人、両方が幸せになれます」と紹介していますね。
我々が展開するTFTプログラムは、社食や学食、外食店等で、寄付がついたヘルシーな食事をしてもらい、その寄付が開発途上国の給食になるという仕組みです。こちらが我慢して、誰かのために何かをするという形ではなく。先進国もヘルシーな食事をとることで健康になることができ、開発途上国の子どもたちにも温かい給食を届けることができるので、ウィンウィンの仕組みです。 「食の不均衡を解消する」という思いでTFTを立ち上げてから16年ですが、当時は先進国、開発途上国が今日より明確に分けられていたと思います。現在は先進国の中にも開発途上国にも、肥満と飢餓が混在して栄養障害の二重負荷のような状態がみられ、より難しくなっている気がします。 (栄養障害の二重負荷とは、同じ国や地域に栄養過剰が懸念されている人と、栄養不良が心配される人の両方が混在していること)
Q:様々な支援の形がある中で、なぜ学校給食なのですか。
日本の学校給食は世界的に見ても優れた制度です。TFTは日本発祥のNPOですから、日本らしさという面からも学校給食の支援がふさわしいのではないかと考えました。学校給食は子どもたちのお腹を満たすだけではありません。給食を食べるために登校することは、同時に教育機会の提供にもなるからです。給食が提供されるようになってから、多くの子どもが学校に戻ってきて、100%近い就学率になったという地域もあります。
Q:支援はどのような国が対象ですか。
我々が現在支援しているのは、アフリカの4か国(ルワンダ、ケニア、タンザニア、ウガンダ)、アジアではフィリピン、世界で5か国の一部の地域です。そこは一家が1日2ドル以下で生活しているような地域で、給食費が払えないから学校に来ないという子も少なくないです。家計を助けるために小さな子でも都会に働きに出なければならなかったところが、給食支援を始めると「給食が出るから学校に行ってもいいよ」という親が増えてくるそうです。支援地域全体にまだ給食を提供できておらず、まずは現在の支援先全体で給食を提供できることを目指しているため、この16年間で支援地域は大きくは変わっていません。
Q:他に2015年から「おにぎりアクション」を始めましたね。
おにぎりやおにぎりにまつわる写真をSNS等に投稿すると、写真1枚につき給食5食分(100円)が協賛企業・団体から寄付される仕組みで、誰でも気軽に参加して頂けるキャンペーンです。なぜおにぎりなのかというと、日本らしく、生活に身近でシンプルに取り組めるものは何かなと考えて、そうしました。その当時ミラノ万博があり、日本食イベントでおにぎりが振るまわれ、外国の方たちが楽しそうにおにぎりを手に取っている姿もきっかけになりました。また「ONIGIRI」という言葉は、外国の方にも発音しやすいそうです。おにぎりは誰かのためににぎることが多く、暖かみを感じるソールフードです。今回は32万2300枚の写真が集まり180万9860食の支援につながりました。9年間の累計給食数は1000万食を超えています。多くの方にご支援をいただき、大変ありがたく思っています。
Q:どのような人の投稿がありましたか。
子どもから80代を超えた方まで参加者も幅広かったのですが、最も多かったのは30~40代でお子様のお弁当で作ったと思われる写真が多かったです。また高齢者施設に入居されている方が職員のリードで取り組んでくださった例もあり、「おにぎりを握ったら、みなさんがお母さんの顔になりました」というエピソードにはほのぼのしました。 また小中高校生の参加も多く、学校でSDGsについて学習し、自分でできることの一つとして気軽に実践できるおにぎりアクションに参加したという学校もありました。クラスや学校単位での投稿についてお問合せが増えたので、今回はクラウド上に用意したスペースにまとめてアップしてくださいという対応もしました。先生方もお忙しいので、一枚ずつ投稿していくとお手間がかかりますから。今後の開催についても、学校側の負担にならないような仕組みを考えたいと思っています。2024年は10年目を迎えるので、節目になるような企画にも取り組みたいと思います。
Q:日本の子どもたちに伝えたいことは何でしょうか。
自分と無関係な世界の出来事に思えるかもしれないことが、眼に見えなくても実は自分にもかかわっているということです。例えばおにぎりアクションが、写真を投稿するというアクションによって支援地域の子どもに教育の機会を提供することにつながっていくように、ちょっとした行動でも世界の課題解決につながることを伝えたいです。 そしてテーブルの向こうには自分たちと同じ子どもが、お腹を空かせているということの想像力を働かせてほしいです。また、目の前にある食事には、たくさんの人が関わったことで出来上がっているということへの感謝の気持ちを持ってもらえたらうれしいです。